てんしょうが子どもの頃、祖母アサの義姉であるトミさんから聞いたお話です。
トミさんは既に故人となられていますが、てんしょうの子どもの頃、てんしょう実家に住んでいた事がありました。
トミさんは霊能力の高い人で、また信心深く、滝行などの修行を積んでいた事もある人でした。
てんしょう実家のお仏壇の前で、よく目に見えない誰かとお話しているのを、見かけた事を覚えています。
そんなトミさんの若い頃、九州にある温泉旅館で、仲居として住み込みで働いていた事がありました。
ある日、その旅館に若いカップルが泊まりに来ました。
翌日、朝食の時間を過ぎても食堂に来られないので、トミさんはそのカップルの部屋へ呼びに行きました。
返事がないので不審に思い、部屋に入ると、二人が重なる様にして、布団の上に倒れていました。
農薬を飲んでの心中でした。
トミさんは、すぐに旅館の主人に伝え、二人を病院に搬送しましたが、女性は既に息がなく、男性も病院で息を引き取ってしまいました。
トミさんはその日から、二人の亡くなった部屋に小さな祭壇を作り、ろうそくと線香を立て、二人分の白いご飯や水を供え、お経を読んで供養をしました。
その部屋に、苦悶に満ちた表情の二人が、並んで立っていたのです。
心中を図って亡くなった為、あの世では一緒になれません。
「 四十九日まで毎日供養をするから、その日が来たら、二人であの世に行きなさい。」
トミさんは、毎朝毎晩、小さな祭壇にお供えをし、二人の為にお経を読みました。
読経の時間になると、二人並んでトミさんの前に立っていました。
四十九日のその日が来ました。
最後の供養の日の朝、いつもの様にご飯や水を供え、お経を読んでいるトミさんの前に、朝日を背にして立つ二人がいました。
並んで立つ二人の顔には、穏やかな笑みが見てとれました。
トミさんがお経を読み終えると、二人は深々とお辞儀をして、光の中へと消えてゆきました。
子ども心にも " 切ないなぁ " と思ったお話でした。
おしまい。
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